大阪高等裁判所 昭和48年(く)17号 決定 1973年4月26日
少年 N・D(昭三〇・二・一九生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告申立の理由は、申立人作成の抗告申立書に記載のとおりであつて、要するに、一七・二キロメートル毎時の速度超過による本件道路交通法違反に対しては反則金をもつて処罰すれば十分であるのに、少年を神戸保護観察所の保護観察に付した原決定の処分は著しく不当であるというのである。
よつて、本件少年保護事件記録および少年調査記録を検討するに、本件は、少年が昭和四七年一一月一七日神戸市葺合区○○○×丁目×番×号先路上において指定制限速度五〇キロメートル毎時を一七・二キロメートル毎時超える六七・二キロメートル毎時の速度で自動二輪車を運転したという速度違反の事案であつて、これのみをみれば所論のように反則金をもつて処罰すれば足りると考えられるが、少年は昭和四六年九月二七日に指定制限速度五〇キロメートル毎時のところを八八・八キロメートル毎時で自動二輪車を運転したことにより同年一〇月二九日罰金一二、〇〇〇円に、同年一〇月二八日法定制限速度六〇キロメートル毎時のところを九〇キロメートル毎時で自動二輪車を運転したことにより同年一二月二日罰金一二、〇〇〇円に、それぞれ処せられた前科があるのに、さらに本件に及んでいることに徴すると、少年には自動二輪車を高速運転して楽しむ傾向、したがつて速度違反を繰り返すおそれのあることがうかがわれ、車両の高速運転が結局は交通事故につながる危険があるものであることを考えると、少年に対しては保護観察機関により交通法規の違反を繰り返すことがないように指導監督し、少年の自覚を促がさせる必要があり、このことがむしろ妥当な措置と考えられる。してみると、原決定が少年を保護観察に付したのは相当であつてその処分をもつて著しく不当なものとは考えられない。
よつて、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条によりこれを棄却することとし主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 瓦谷末雄 裁判官 尾鼻輝次 小河厳)
参考 昭四八・三・二七付け附添人弁護士作成の抗告申立書
(不服申立理由)
第一本件事案
本件非行は、少年が昭和四七年一一月一七日、神戸市葺合区○○○路上において、自己所有の自動二輪車を法定の速度より一七、二キロメートル毎時を超えて走行したことによる。
第二処遇意見に対する反論
一 右事案からすれば、本件はそもそも「反則金」で処罰されるべき性質のものである。
少年には昭和四六年九月二七日、同年一〇月二八日、速度違反で処罰されている。右違反行為によつて少年は罰金刑を課されているだけであつて、運転免許停止等の行政法上の処罰は受けていない。
また、右違反行為は約一年前の事案であつて、少年は右違反行為を充分反省し、その行動を自重していたのである。
よつて、少年は日頃からスピードについては充分に注意して自車を運転していたのであり、運転技術については、これまで何ら事故を起していないことが証明するように非常に優秀で事故の恐れは全くないのである。
今日の交通事情のもとにおいては、約一七、二キロメートルの速度違反は日常茶飯事であつて、保護観察処分に対する程の事もないと思料する。
二 少年は性格も素直で、正直で、非常におとなしく、真面目な若者である。
生活環境も良好で、両親の愛情も深く、信頼も厚く育つてきたものである。
少年は現在、本件車両を処分し、普通運転免許の交付を受け、ここしばらくは自動車の運転もしない程慎重を期している。両親も少年の監督を充分に注意すると誓つている。
(結論)
以上述べた如く、本件は反則金で処罰すべき事案であり、(道路交通法一三〇の二条)少年法の基本精神からも、この程度の事案は、講習等の指導によつて充分その目的を達成できると確信する。
よつて、神戸家庭裁判所が少年に対してなした保護処分決定は著しく不当であると思料するのでここに抗告を申し立てる次第である。